自意識系ラブコメを考える セカイ系The final

・自意識系ラブコメとは

 

 自意識過剰なラブコメ*1のこと。主人公とヒロインの間に社会的な階級の差があり、それが恋をしていくうえで壁になってクヨクヨする作品。

 たいていは主人公が"下"でヒロインが"上"です。もちろん人間の価値に上下なんて存在しないと思ってるけど、まあそこに悩むからこそ自意識系というか、屈託がないと始まらない。

 代表作は『僕の心のヤバイ奴(以下、僕ヤバ)』と『彼女お借りします(以下、かのかり)』。

 『僕ヤバ』は中学受験に失敗して内向的になってしまった主人公が同級生のモデルを好きになる話で、『かのかり』は自堕落な普通の大学生がレンタル彼女をやりながら女優を目指す同級生を好きになる話。

 どちらも「自分みたいな人間がこんな凄い人を好きになっていいのか、好きなってもらえるのか」という逡巡がフォーカスされがちです。

 「禁断の恋」とか「立場を超えた恋」など昔から馴染みのあるモチーフの現代版orオタク版と言った感じ。恋愛物では恋を阻む障害が大事なわけだけど、自意識系ラブコメではそういった"壁"は(半分くらいは)ウダウダした自意識で作られてる。ドラマティックで壮大なものより身近なもの、というのが非常に現代的だ(適当)。

 

 

セカイ系と自意識系ラブコメ

 

 「エヴァっぽい独り語りの激しい作品」と言われていたのがいつの間にか評論家の間では「君と僕との関係が社会という中間項を抜きに世界の運命に直結する作品」になり議論は激化して行き......。*2

 『イリヤの空、UFOの夏』『ほしのこえ』『最終兵器彼女』などの作品がセカイ系と呼ばれてたらしい。

 まあ定義は置いておくとして、大事なのはセカイ系作品の「重大な使命を背負ったヒロインは戦いに出向き傷つくも無力な主人公は成す術がない」みたいな要素に我々は熱狂してたということです。セカイ系と呼ばれた作品たちがオタクに訴求力を持てたのは、そういう好きな子への手の届かなさや無力さみたいなやきもきした感情がマゾヒズム的に気持ち良かったからなんですよ。NTR漫画が気持ち良いのと同じです。(諸説あり)

シンジくんや浅羽はまさにその無力さが気持ちよくて自慰行為に耽ってたし。(違う)

 で、こういう自分の至らなさとかヒロインへの手の届かなさみたいなやきもきした気持ちよさは自意識系ラブコメの真髄でもあるのです。

 

 

・自意識系ラブコメの断絶

 

 ここが1番のキモなんですが、好きな子に自分の関われない、しかも本人にとって重大な部分が存在するとめちゃくちゃモヤモヤするんですよ。もしかしたらそれは恋より優先されてしまうような部分だったりする。恋より大きな存在。それはもう恋敵です。

 僕ヤバとカノカリのヒロインがそれぞれ属するモデル界/演劇界は物語上同じような役割を果たす。そこには主人公なんかよりもイケメンで社会性があって自立している人がいくらでも存在して、自分とそれらを比較してダメージを負ったりするわけです。自分の知らない世界で自分と違ってこんなに輝いてる。自分との恋なんかより大事なものかもしれない。自分より優れた同性も沢山いるからNTRの可能性もある。その現実が主人公と読者の心をグサグサ刺す。これがストレスであると同時に気持ち良いのなんの。

 

 自意識系ラブコメでは、主人公とヒロインは今にも切れそうな細い運命の赤い糸で繋がれています。『僕ヤバ』では同じクラスなのにも関わらず図書室でしか言葉を交わしません。『カノカリ』では同じ大学なのに大学で関わることは0に近い。元々共通点がなく立場も違うので、口実がなければ関わることすら出来ない。ラブコメ作品なのでヒロインとは恋人関係を結ばなければいけないのに、知人関係すら薄氷の上に成り立ってるのです。陰キャ陽キャの恋愛が成就するというファンタジーにおいて、周りを装飾する要素が現実的で生々しいからこそよりその恋に重みが増すんですよね。

 

 

・まとめ

 

 あの日あの時セカイ系と呼ばれてた作品を読んでたときの辛いけど気持ち良いような不思議な気分は

・惨めで無力な自分というマゾ的な自己憐憫の快感

・自分の知らないものがヒロインの重要な部分を占めてしまうというNTR的快感

があって、それはラブコメにも通じる作品があるなー、というお話でした。

 

 

・おねショタと自意識系ラブコメなどジャンルの話

 

 おねショタは「お姉さんに並びたくて背伸びするボク」みたいな自意識の構図が頻出しがちなので自意識系ラブコメっぽいのないかなー、と探したけどショタにはたいてい屈託が足りないので少しジャンルが違うらしい。

 それとは別に、天気の子よろしく「"大きなものが小さな君の肩に乗ってて"主人公もそれを君(お姉さん)と一緒に背負いたいけど自分の存在が小さくて背負えない」みたいな「闇を抱えたお姉さん系ラブコメ*3」というのがあり、これは自意識系ラブコメとほぼ同じ味がするんだけど卑屈さが足りないかな〜、ということで別ジャンルな気がする。

 

*1:この記事では恋愛物とラブコメを区別しません

*2:参考 前島賢,セカイ系とは何か,星海社

*3:

『水は海に向かって流れる』『隣のお姉さんが好き』『波のしじまのホリゾント』など